北海道斜里町の知床半島沖で26人が乗った観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没した事故から23日で1カ月。これまでに14人の遺体が見つかった。なお12人が行方不明のまま、家族や友人らはいまだ信じられない思いを抱えながら、一刻も早く見つかることを祈り続けている。
「よく帰ってきたな」
「よく帰ってきたな」。北海道知床半島沖で沈没した観光船の事故で親族が犠牲になった男性は、遺体と対面して涙が止まらなかった。
まだ海を漂っているのではないか。海岸に打ち上げられていないか――。遺体がみつかるまでの間、落ち着かない日々を過ごしたという。
「もう一度、3人一緒にいられるよう」
東京都葛飾区の加藤七菜子さん(3)は今春、幼稚園に入園したばかりだった。親子3人で仲良く出かける姿を近所の人は見かけていたという。七菜子さんと、父親の直幹さん(35)は遺体でみつかった。母親は行方不明のままだ。「もう一度、3人一緒にいられるように」と近所の人は願う。
「クマみたいなお前が…」
「ジャンボ」という愛称で呼ばれていた千葉県南房総市の60代男性も行方不明のままだ。「一見こわもて。でも中身は優しかった」と長年の仕事仲間は語る。事故直前にも知床を訪れており、お土産を持ってきてくれた。今後はヒグマを見に行くという男性に、仕事仲間は「クマみたいなお前が……」と笑った。
「還暦を迎えたばかり」
岐阜県多治見市の瀬川由美さんは夫とともに乗っていた。3月に市内に自宅を購入し、神戸から引っ越してきたばかりだった。由美さんは遺体でみつかり、夫はまだ行方がわからない。夫の大学時代の友人は「お互いに還暦を迎えたばかりで、久々に会おうかと話をしていた」。冷たい海から早く温かいところへ、と願う。
「1カ月もたってしまった」
小学校低学年の孫2人を学校まで送るのが日課だった佐賀県有田町の70代男性も、消息がわからない。一緒に北海道旅行へ出かけたゴルフ仲間2人は死亡が確認された。コロナ禍の前には一緒によく旅行したという地元の幼なじみたちと、長崎への鉄道の旅も計画していた。「1カ月もたってしまった。もやもやしている。家族もかわいそうだ」
「まさかこんなことに」
行方不明となっている福岡県久留米市の男性は、長崎ちゃんぽん店を展開する会社の社員。駐在先のカンボジアから一時帰国中、北海道を旅していたとみられる。趣味はカメラ。現地の日本人たちの懇親会では、食事そっちのけで、汗だくになって仲間の写真を撮る姿があった。子どものころを知る人は「明るくて、他人のことを思いやる性格」と語る。「まさかこんなことになるなんて」
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル